Swizerland Day68

朝からいい天気だった。搾乳を終わらせたXaverから9時に出かけると告げられ、忙しくバックウィットのパン、キュウリやトマトをカバンに詰め込んで、アップルジュースも持って(持ってもらって)、GanterschwilからNettlauという村まで向かう。途中のバスはとても混雑しており、登山バックやストックを持ったハイカーたちも結構いた。

 


今日はXaverと2人でSpeerという地元の人ぞ知る山を登山しに行く。一つ山を越え、向こう側の湖まで縦走するらしい。順調にいけば片道7時間。Speerを登る時はクライミングしなければいけない場所もある。私はどちらかというと岩の山よりも森林限界以下をハイキングする方が好きなタイプなので、えーっクライミングするの!?と終始ビクビクしていた。

 


Nettlauはとても小さな村で、バス停から歩いてすぐ、牧草地の脇道というか、登山道の始まりに入った。スイスはハイカーたちが牧草地や畑を、つまり農家の土地を平気で横断できるようになっている。そして柵もないので牛ともかなり接近できるという…。Xaverがあの牛舎は屋根が大きい構造だから何時頃建てられたとか、アルプの農家は政府からの手当てが厚いとか、この草はなんだとかまるでガイドのように色々教えてくれた。いつのまにか牧草地から森へ移り変わり、森林の中を歩いた。昨日は雨だったので、ところどころぬかるんでいたが、あまり支障はなかった。そうして登っていると、車や自転車でも来れる開けた道に出て、アルプの始まりになっていた。古く背の低い牛舎がぽつぽつと建っており、夏の間だけ使われる。主に乾乳や育成だが手作りのパーラーもつけられていて、搾乳できるようにもなっている。ところでアルプは急な崖や坂が多いが、こんなところでも草刈や集草できるような作業機が普及している。前後タイヤはダブルで計8個、トラクターよりも背が低く、地面に這いつくばる感じで横転しないようになっていて、なるほどなぁと思った。

 


湧き出る水は透き通っていてとても冷たい。整備された道が終わるといよいよ登山道へ。といってもあちこちに牛が放牧されており、カウベルがこだまするのはなんとも気持ちが良い。決して楽ではなかったが、途中途中息を切らしながら登ると、スイスのフラッグが見えた。丘の上にレストランがありここらで暫し休憩する。面白かったのは、トラクターのPTOでレストランで使う食べ物をロープウェイのように運ぶ手作りのシステム。超古い走れないようなトラクターと、たった三本の柱で支えられていて、それに木箱がぶら下がっていた。

 


レストランでは偶然にもXaverの小学校の先生家族と一緒になり、同じテーブルで休憩することに。Moleのアルコールフリーアップルサイダーが世界一美味しい飲み物だと思ったのは、頑張ってアルプを登ったということだけが理由ではないだろう。他にチーズとパンも注文してくれたが、このサイダーで私は満たされた。wwoofという制度に皆さん興味津々で、何勉強してるの?とかなぜスイスなの?とか、質問されたが誠意を持って答えた。都会では人々は冷たいが、山では挨拶もするし、気軽に身の上話をするとXaverが言った。

 


休憩を取った後もう少し登ると、丘に隠れていたSpeerがいよいよ姿を現した。うーむ、私に取っては断崖絶壁だ。Xaverについて歩いていると、道を間違えたらしく、このまままっすぐ行くとイージールートになってしまうがどうする?と。…答えは否!ここまで来たからには挑戦しようではないか!と元来た道を引き返し、改めてクライミングコースへ。スイスのアルプは難易度がT1からT6まで分けられていて、いわゆるハイキングはT3まで。T4からはチェーン付きではあるが、クライミングしなければならない所も出てくる。T6はアイガーなど、自分でルートを探さなければならない。崖の真下まで来ると、いよいよ緊張してくる。垂直とは言わないまでも、80度くらいはあるのではないだろうか。しかも!昨日の雨がまだ乾いておらず、足をかける石などは濡れていてかなり滑りやすい。こっからはNodoka が先頭で自分のペースでいいよと言われた。うん…、頑張るよ。いよいよ登り始めた。

 


マジでチェーンしかないので、足を滑らして手を離してしまったら落ちる箇所がいくつもあった。Xaverが真後ろにいるのでいざという時は支えてくれるかもしれないが、私より軽い気がする。最大200メートルを登っていかねばならない。股間接が硬いので、いいポジションに足を置けなかったり、次にどこに体を持っていくか常に考えなければならないので、ボルダリングとか頭を使うスポーツだなぁと思った。後ろで励ましてもらいながら、ヤバいと思った時はちょっと待ってもらいながら、そんで貴方のこと今恨んでるよとか冗談も言いながら、登りきった!ハイキングとは違うスリリングがあって怖かったけど、景色がこれまた一味違った感動をよんだ。I'm proud of you!とXaverが言ってくれて、頂上に置いてある登頂した人が書くノートに日本語で書いた。食欲はなかったがキュウリを一本食べ、とても濃い味がした。頂上は風が強く、帽子が吹き飛ばされそうになりながらパノラマで撮ったりした。

 


下山はSpeerの表面から。クライミングではなく、ストックがあれば来られるくらいの登山道である。下山し始めるとすぐにアルプの牛たちが横臥しているのが見えた。普段狭い場所にいる姿しか見ないから知らなかったが、牛たちはこんな高い急な崖のところまで来られる。巨体を小さな表面積の足で支えて。改めて牛たちのことを尊敬した。帰りはとても楽で、アルプを抜け、森を抜け、あっという間に降りてきてしまった。途中、いつ立つの?という話からアウシュビッツに行くから15日に出ようと思うと答えると、IIWWの話になった。スイスは確かに中立国ではあったが、多くの疎開者を断ったりドイツ寄りであった話などしてくれた。太平洋戦争のことは知っていても、世界大戦の世界的な流れをあまり知らないことを恥じた。

 


2時間くらい歩いた頃、ようやく湖が見えてきてベンチで少し休憩した。辺りは丘になっており家々が並ぶ。本当に絵本の世界に入り込んだような世界観である。ふと山を見上げると厚い雲に覆われていた。さっき登った山頂は今頃雨だろう。予報を見てみると1時間以内に雨が降ると言うことで、本当は湖まで歩くはずだったのだが、ここらでバスに乗ることになった。休憩含め計8時間。なかなか頑張ったのではないだろうか。

 


そして湖のほとりにあるレストラン街へバスで降りた。湖では釣り人やカップルやゲイも見かけたし、スイス伝統のながーい楽器を吹いて練習している老夫婦も見かけた。最初からXaverは湖で泳ぐ気だったらしく、湖に飛び込んでいった。日本人の私にとっては夕暮の湖の水など冷たすぎて、足を浸すだけで十分だった。アップルサイダーを飲もうかとなったが、雨が降ってきてレストランのアウトサイドは店を閉めてしまい、バスの時間も15分しかなかったので諦めることに。代わりに駅のキオスクでシャーレーを買ってもらった。

 


電車の中で兵役の若者を見かけ、話はアーミーについて。スイスでは20歳男子は兵役があり、最初の基礎訓練4ヶ月と、30歳までに3週間ずつ、訓練と合わせて8ヶ月ほど従事しなければならない。Xaverはかなり悪い訓練生だったらしく、わざとテストを間違えて居残りに長官を付き合わせたり、二日酔いで朝の集合フラフラだったりというエピソードを話してくれた。

 


家に帰ったのは夜も更けた頃で、りんごジュースを飲みすぎてお腹は減ってなかったが、余ったサンドイッチとXaverが作ったパスタをほんの少しもらって、寝ることに。今日はよく体を動かした。海と比べると山は辛いことをの方が多いけど、達成感はあるんだよね。

 

f:id:N5-phage:20190819192513j:image
f:id:N5-phage:20190819192440j:image
f:id:N5-phage:20190819192434j:image
f:id:N5-phage:20190819192500j:image
f:id:N5-phage:20190819192448j:image
f:id:N5-phage:20190819192523j:image
f:id:N5-phage:20190819192518j:image
f:id:N5-phage:20190819192507j:image
f:id:N5-phage:20190819192552j:image
f:id:N5-phage:20190819192529j:image